【寄稿】地方自治体との信頼関係の築き方と協働のための留意点

一般的な企業では、指定管理事業や各種の業務委託を除き、地方自治体と仕事をする機会は少ないと思います。地方創生において、官民連携が必須とされている中、企業も地方自治体も、互いにどのように付き合えばいいのかという課題を持ち続けているのが現状です。数多くの地域で官民連携を推進してきた筆者の経験をもとに、そのヒントを紹介します。

地方創生の陰と陽 第二弾 須田憲和

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地方自治体との信頼関係の築き方と協働のための留意点

 【お互いの慣習・目的・リソースの違いを理解する】

地方自治体と民間企業とでは、その資質や活動において大きな違いがあることを再認識する必要があります。資質の違う両者が一緒に活動するためには、お互いがお互いのことを理解し、尊重しあえる関係を構築することが必須となります。
しかし、往々にして相手組織や立場を理解しないまま、自分の権利や希望、道理を無理やり押し通そうとしてしまう事例が多く、これでは何の解決にもならない上に、前向きな協力を得ることも不可能です。
両者の違いを、経験や人伝えに理解している方も多いと思いますが、違いを大きく分けると、
・「目的」
・「慣習」
・「リソース」
という3分野に分けることができます  (図1)。

●「目的」の違いを理解する

民間企業の目的を簡潔に説明するのは難しいですが、「社会の役に立つ製品やサービスを提供することにより、お客様に喜んで頂いた報酬として対価を頂き、お客様のライフワークやマーケットの変化に合わせた商品・サービスを提供し続けること」「新しい価値の創造を繰り返すことで、信頼を築き、事業を拡大していくこと」という、表現になると思います。
一方、地方自治体の目的を簡潔に説明するのも難しいのですが、「地域住民の生活に関して必要とされる各種の行政サービスを〝公平・中立〟に提供し続けること」と言えます。

「慣習」の違いを理解する

民間企業の場合には比較的、自由な発想で、過去からの慣習を見直し、時代に適した形に修正できますが、地方自治体の場合には、簡単に過去からの慣習や仕組みを変えることはできません。
いわゆる「お役所仕事」と批判されがちな、手続きや対応、組織、運用などは、過去からの画一化された仕組みの中で行われているのが事実です。縦割り組織特有の事情もあり、簡単には改革できないのです。
例え効率化を目指した変更でも、万人が評価するわけではありません。住民の方々には様々なライフスタイルが存在しており、ファミリー層だけでなく、若者世代や高齢者世代にも納得してもらえる内容を検討しなければならず、単なる効率化やコスト削減のためだけの施策では、住民の評価が分かれてしまいます。

民間企業であれば問題ありませんが、公平性と中立性の原則のもと活動している地方自治体の場合は、かなりシビアな問題でもあります。

「リソース」の違いを理解する

リソースには多くの対象物が存在しますが、今回は一番大切な「人」に着目してみましょう。民間企業の場合、適材適所の配置で業務効率化を目指すと共に、長期的視野に基づいた人財育成も兼ね備えた人事を実施しています。
この点においては地方自治体も同じ考え方ですが、大きな違いは地方自治体の場合、一度配置された人事は絶対的なものであり、配属期間中に一時的な部署移動や部署を跨いだ業務への着手は、ほぼ禁止されています(縦割り組織のため、都度、上長同士の理解と承認が必要)。
民間企業の場合は、臨機応変に配置換えや組織再編をしますが、地方自治体の組織体制の中で、同様のことを行うことは、ほぼ不可能とされています。
しかも、地方自治体の人事異動は約3年、業務ローテーションの考え方から、全然違う部署へ移動することも多々あります。担当者レベルで関係性を構築しても、その「人」が替わった段階で、ゼロからのスタートとなる恐れもあり、もし後任者が消極的な担当者であれば推進活動も減速してしまいます。

市長や町長といった首長自身においても例外ではありません。選挙によって住民の信託を得て首長に選出されるわけですが、ご存知の通り首長の任期は4年間です。このような人事制度を持った組織と連携するわけですから、一般的なビジネス感覚ではない、知恵と工夫が必要です。無論、民間企業側にも同じことが言えます。

【地方自治体の「年度予算」その考え方を理解する】

民間企業の場合、年間予算を決めた事業をしている途中でも、臨機応変に予算を修正することができます。しかし、地方自治体の場合は、年度予算を確定した後は、基本的にその枠組みで執行するしかありません。突発的な事象や対応が必要なときには補正予算を組みますが、この手続きも簡単ではなく職員には大きな労力負担になります。

予算に関しては地方自治体が予算案を作成した後、議会の承認を得る必要があるので、説明責任を果たさなくてはいけません。議会は地方自治体運営の牽制機能を有しているので「なぜやらなくてはいけないのか」「なぜ今なのか」「費用対効果はどうなのか」「失敗したときのリスク対策は」「誰がやるのか」など、住民の税金を公平かつ、効率的に使っているのかを厳しく追及されます。当然、それらをすべてクリアしなくてはいけません。

担当者レベルで考えた場合、越えなくてはいけないハードルは議会対策だけではありません。自部門の責任者が作成する予算要求書は、まず、地方自治体内の財政部門に集約され、ヒヤリングが行われた後、他部署との関連性や調整を行い責任者が査定します。その次が首長査定、そして予算案を確定させて議会提出・審議となりますので、この仕組みや事情を理解してないと連携した事業はできません。

ちなみに予算編成について、新年度4月からの予算が決まるステップの概要を簡単に説明すると次のような流れになります。前年の10月頃から12月頃に、各部署が、自部門における予算要求を財政部門に提出し、担当者ヒヤリングが行われます。翌年1月頃には財政部門責任者による査定があり、2月頃に首長による査定と予算案の確定をします。3月の議会で審議を諮り、決議が取れれば4月から予算執行となります。

【信頼を構築する為の手法事例】

お互いの立場や組織、考え方の違いを認める、決して相手を批難しない、つまり、相互理解が重要であることが分かったと思います。では、具体的に、どのように信頼関係を構築するのかについて、事例を交えて紹介してみましょう。

組織や業態は違えども「人」との付き合い方は、基本どの場面でも同じです。どうすれば「相手が気持ちよく」そして「積極的に動いてもらえるか」「モチベーションをあげられるか」を考えればいいのです。それは、前述のとおり相手の立場に立った考え方ができるかになります。

職員の活躍や成果は、職員の上司や首長(市長・町長)に「礼」と共に報告する

例えば、担当者とやり取りしている中で、想像以上の活躍や、難易度の高い調整や苦労をしてくれた場合、本人にお礼を言うのに加え、地方自治体ならではの配慮をすることで、より有効的な結果を得られる手立てがあります。
普段から地方自治体職員は「やって当然」で、失敗はマイナス評価という評価制度のもとで仕事をしています。そのため、住民からも上司からも高い評価をもらうことは至難の業なのです。
そこで、市長や町長に直接「□□部の○○さん、すごく頑張っています。自走式で取り組んでおられ、今回のプロジェクトが彼の努力でまた一歩進みました!」と、お礼とお褒めの言葉を伝えることをします。

市長や町長は、担当者の名前も知らないことが多いのですが、その情報は記憶に残りますので、担当部署の責任者に「君のところにいる○○くん、頑張っているらしいね」と話をします。言われた責任者も、市長や町長からそう言われると誇らしげになるわけです。これにより、担当者がさらに動きやすくなるという好循環を生み出していきます。 民間企業も同じようなものですが、内部者からの評価よりも外部者からの評価の方が高評価となる道理を理解してください。筆者もこれを心掛けて、多くの地域でいいお付き合いをしています。

乗り越えられない壁や問題が発生したときが最大のチャンス

さまざまな課題や問題が発生して、予想外の対応を余儀なくされることがしばしばあります。そんなときは、相手側の範疇の問題でも、一方的にすべてを押し付けるのではなく「自分側も、ここまでやるからから、あなたもここまでは頑張ってほしい」と、本音を相談すればいいのです。共同責任で一緒に問題を解決していくという考え方が大切です。結果、一緒に危機を乗り越えたという達成感と責任感が一体感を醸成してくれることにつながります。

トラブルが発生したときこそ、勇気を出して対応することが将来における信頼を得るきっかけになります。

プロジェクトの進捗はこまめに報告・共有をする

民間企業の場合、活動方針の間違いに気付いたときは自己責任において容易に修正することが可能です。しかし、地方自治体の場合は、一度決めたことを方向修正するのは対外的な説明責任があるため容易にはできません。しかも過去の動きを否定することなく、状況を分析し、将来に向けた検討を重ねた結果、修正をしたいという旨の説明を、住民や関係者に向けて用意する必要があります。

プロジェクトの推進過程においては、常に、状況報告や課題共有をしておく必要があります。状況が悪化した後に共有しても理路整然とした説明は不可能であり、責任に耐えることはできません。したがって、普段からのコミュニケーションは必須事項となります。お互いに、自分の後ろに背負っている組織や必要とされる対応が違うということを理解し、早めの対応を心がけてください。

達成感の共有が強固な関係を構築する

協働で実施した事業が完遂したとき、それは契約だからと冷ややかな対応をするのではなく、一緒に努力したことを相互で認め合って、感謝の気持を示し、喜びを分かち合いましょう。

どんなに小さな協働事業も、相手側には分からない自分側の事情や解決対応策を重ねています。相手側には見えない、あるいは相手に言えない、根回しや調整をお互いがやっているものです。
民間同士の協業も社員同士の「達成感の共有」が、信頼関係を深めるキーポイントになります。地方自治体との協働事業においても、それは同様です。

【協働による事業で多角的な地域活性化を実現】

地方自治体との付き合い方は、指定管理業務や様々な業務委託の受託だけが連携ではありません。
そこに契約がなくても、相互が目指す方向が同じであれば、その目的のために共に事業を進めればいいのです。単独でやるよりも早く、また、より大きな成果を出すためにベクトルを合わせて協働することもできます。

まずは、やりたいことを具体的に共有する

地方自治体がやりたいこと、取り組まなくてはいけないことを理解し、最終的な目的が同じであることの共有ができれば、後は、お互いがお互いの立場で、やれることを相互認識して情報を共有しながら進めるだけです。つまり、民間事業の成果が結果的には地域貢献につながっているという考え方になります。

不平・不満を言う前に人材育成の一環と考える

地方自治体職員はビジネスマンではありません。経験不足からくる言動や行動で、不満や不安がよぎることもあると思います。しかし、経験がなく、その教育を受けていないので当然のことと理解して、地域の職員の人材育成に一役買っているという大きな心持ちで接していくことが必要です。地域でお互いの足りない部分を補い合えばいいのです。

お互いのネットワークを共同利用する

お互いに独自のネットワークを有効利用するのは当然ですが、協働事業により、相手側の人脈やネットワークを利用することも可能となります。新しい参加者を巻き込むことができれば、将来に対する推進力を補完することにもなりますし、新しいアイデアや知恵が生まれる可能性もあります。民間主導で地方自治体同士の連携が始まることも多々あります。

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「近代中小企業」
発行:中小企業経営研究会
http://www.datadeta.co.jp/
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